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金子 政志; 中島 覚*
Inorganic Chemistry, 60(17), p.12740 - 12752, 2021/09
被引用回数:3 パーセンタイル:32.49(Chemistry, Inorganic & Nuclear)高レベル放射性廃液中で観測されている白金族元素と水素との反応の理解に向けて、本研究では、水素と酸化的付加反応を起こす代表的な錯体であるVaska錯体-[IrCl(CO)(PPh)]とその酸化付加体-[IrCl(YZ)(CO))(PPh)]に着目し、密度汎関数(DFT)計算を用いてIrメスバウアー分光パラメータの報告値と電子状態を相関づけた。DFT計算によるIr錯体の安定構造やIrメスバウアー異性体シフトの再現性を確認した後、Vaska錯体と酸化付加体のメスバウアー分光パラメータの計算を行った。結合解析によって、メスバウアー異性体シフトの傾向が、配位結合における共有結合の強弱と相関づけられることが明らかになった。また、電場勾配(EFG)の解析によって、EFG主軸の符号がYZ=Cl付加体とYZ=H付加体で逆転していることが分かり、状態密度解析から、IrとYZとの配位結合における電子密度分布の違いが、EFG主軸の符号逆転の原因であることが示唆された。
Schnaars, K.; 金子 政志; 藤澤 清史*
Inorganic Chemistry, 60(4), p.2477 - 2491, 2021/02
被引用回数:6 パーセンタイル:59.03(Chemistry, Inorganic & Nuclear)高レベル放射性廃液の有害度低減のために、マイナーアクチノイドに対して高選択的な試薬が必要とされている。混合N,Oドナー配位子-テトラキス[(6-カルボキシピリジン-2-イル)mメチル]エチレンジアミン(HTPAEN)は、Am/Eu分離におけるマスキング剤として良い性能を示すことが知られている。本研究では、Oドナーの塩基性を変えることでM-N相互作用を操作することが可能なを調査するため、負電荷を帯びたTPAENのカルボン酸を中性のアミド基に置換した新規配位子-テトラキス[(6--ジエチルカルバモイルピリジン-2-イル)メチル]エチレンジアミン(TPAMEN)を導入した。TPAMENとEu(OTf)及びEu(NO)6水和物と結晶化することで、正電荷を帯びた[Eu(TPAMEN)]錯体を生成した。M-O/N結合距離を報告されている[Eu(TPAEN)]錯体と比較し、DFT計算の援用により電子密度の違いについて議論した。さらに、[M(TPAEN)]及び[M(TPAMEN)] (M = Eu, Am)の錯生成エネルギーの差の予測によって、TPAMEN配位子のAm/Eu分離に向けた潜在的な性能についての知見を得た。
加藤 茜*; 金子 政志; 中島 覚*
RSC Advances (Internet), 10(41), p.24434 - 24443, 2020/06
被引用回数:6 パーセンタイル:31.74(Chemistry, Multidisciplinary)高レベル放射性廃液中のルテニウム化学種の安定性を予測することを目的として、硝酸溶液中のルテニウムニトロシル錯体の錯生成反応を密度汎関数法(DFT)を用いて調査した。DFT計算によって得られた[Ru(NO)(NO)(HO)]の最適化構造を既報の実験値と比較した結果、Ru-配位子結合距離やIR振動数を再現することが分かった。幾何異性体間のギブズエネルギーの比較した結果、硝酸イオンの錯生成反応は、Ru-NO軸に対してエクアトリアル平面に配位することによって進行することが明らかになった。また、逐次錯体生成反応におけるギブズエネルギー差を見積ったところ、Ru錯体種と置換する配位子との会合エネルギーを考慮することによって、6M硝酸中のRu錯体種のフラクションを再現することに成功した。Ru-配位子との配位結合の解析の結果、Ru錯体種の安定性は、トランス影響に起因する電子密度の違いによって説明できることが示唆された。本研究は、硝酸中における白金族元素の詳細な錯生成反応のモデル化に寄与することが期待される。
金子 政志; 加藤 茜*; 中島 覚*; 北辻 章浩
Inorganic Chemistry, 58(20), p.14024 - 14033, 2019/10
被引用回数:12 パーセンタイル:63.71(Chemistry, Inorganic & Nuclear)高レベル放射性廃液中に存在することが知られているニトロシルルテニウム錯体について、密度汎関数計算を用いて、Ruメスバウアー分光パラメータ(及び)と配位子場分裂()を相関づけた。[Ru(NO)L] (L = Br, Cl, NH, CN)の構造は、全て報告されている単結晶構造に基づいて作成した。異なるスピン状態で計算した構造とエネルギーを比較した結果、一重項状態[Ru(II)(NO)L]が最も安定であることが分かった。及びの計算値は、報告されている実験値をよく再現し、L = Br, Cl, NH, CNの順で増加した。さらに、C対称性を仮定したを見積った結果、同じ順で増加し、分光化学系列と一致することが分かった。これは、配位子のドナー性及びアクセプター性の増加が、結果としてメスバウアー分光パラメータの増加に起因することを示唆している。
中島 覚*; 金子 政志; 吉浪 啓介*; 岩井 咲樹*; 土手 遥*
Hyperfine Interactions, 239(1), p.39_1 - 39_15, 2018/12
被引用回数:2 パーセンタイル:66.27(Physics, Atomic, Molecular & Chemical)本研究は、鉄二価集積型錯体のスピンクロスオーバー(SCO)のオン・オフ現象と転移挙動の制御について議論する。ビスピリジル型配位子で架橋した鉄二価集積型錯体のSCO現象が起こるか否かは、鉄原子周りの局所構造によって決定する。つまり、鉄原子を通して向き合っているピリジンがプロペラ型で配位しているときにSCO現象は起きるが、平行型または歪んだプロペラ型の場合起きない。これは、プロペラ型の場合、高スピン状態から低スピン状態への構造変化において立体障害がより小さく、鉄とピリジンがお互いに近づくことができることに起因する。さらに、局所構造を制御し、転移温度を変化するための試みとして、ビルディングブロックにメチル基やシステムを導入した配位子の設計や、アニオン配位子の希釈効果についても議論する。
橋本 和幸; Wan, K. W. H. B. B.*; 松岡 弘充
Journal of Nuclear and Radiochemical Sciences, 6(3), p.193 - 196, 2005/12
治療に有効な核的特性を有するラジオアイソトープ(RI)をがんへ集積する性質を有する生理活性物質(モノクローナル抗体等)に標識した化合物は、がんの内用放射線治療への応用が期待されている。メルカプトアセチルトリグリシン(MAG3)は、生理活性物質のRI標識に有用な二官能性配位子の一つである。本研究では、がん治療に有効な核的特性を有するジェネレータ製無担体ReによるMAG3標識について、直接合成法及び中間体を生成させるtransfer配位子(クエン酸及びグルコン酸)を用いた合成法による標識条件(Reの還元剤である塩化スズ濃度,pH,MAG3濃度,transfer配位子濃度,担体の有無等)の違いを詳細に比較検討した。最適条件下では、いずれの方法によっても90%以上の標識率が得られた。直接法とtransfer配位子法を比較すると、直接法は、反応を窒素気流中で行い、さらに溶媒の除去操作が必要であるが、transfer配位子法では必要がない。したがって、操作上は、transfer配位子法の方が簡便である。また、transfer配位子の違いにより、標識率のpH依存性の違いや室温での反応性の違いなどが観察された。今後は、transfer配位子の違いによる抗体標識及びtransfer配位子を利用した他の有用配位子の標識に関する検討を行う予定である。
石森 健一郎*; 渡邉 雅之; 木村 貴海; 矢板 毅; 山田 たかし*; 片岡 悠美子*; 篠田 哲史*; 築部 浩*
Chemistry Letters, 34(8), p.1112 - 1113, 2005/08
被引用回数:13 パーセンタイル:44.77(Chemistry, Multidisciplinary)三脚状の構造を持つトリス(2-ピリジルメチル)アミンは、ピリジン環を3個持ち、3価アクチノイドの分離に対して注目されているソフトドナー配位子である。本研究では、これを立体化学的に置換した配位子を用いて、3価のアクチノイドの分離を行った。その結果、置換か所を一か所から二か所に増やすことにより、3価ランタノイドとアクチノイドが効果的に分離され、また2-ブロモデカン酸をこれら置換した配位子と組合せることでさらによい分離性能が得られることを見いだした。
福士 圭介*; 佐藤 努*; 柳瀬 信之; 湊 淳一*; 山田 裕久*
American Mineralogist, 89(11-12), p.1728 - 1734, 2004/11
シュベルトマナイトによるAs(V)収着機構が酸性条件下におけるAs(V)濃度の関数としたバッチ収着実験と結晶学的考察から検討された。シュベルトマナイトの結晶構造シミュレーションから、シュベルトマナイトのAs(V)収着のための潜在的な表面サイトは、幾つかの配位環境の異なる表面水酸基及び表面硫酸基であることが推測された。バッチ収着実験から、As(V)イオンは表面吸着硫酸基及び表面に配位する構造由来の硫酸基と選択的に配位子交換を行うことでシュベルトマナイトに収着されることが示唆された。また、As(V)は表面吸着硫酸サイトに対しては単座的に配位子交換を行い、構造由来硫酸サイトに対しては二座的に配位子交換を行うことが示唆された。さらに実験結果から見積もられた配位子交換反応の平衡定数は実験結果をうまく再現した。
小川 数馬*; 向 高弘*; 荒野 泰*; 花岡 宏史*; 橋本 和幸; 西村 洋*; 佐治 英郎*
Journal of Labelled Compounds and Radiopharmaceuticals, 47(11), p.753 - 761, 2004/11
被引用回数:28 パーセンタイル:61.65(Biochemical Research Methods)癌性骨転移の疼痛緩和薬剤として、ビスホスホネート化合物の一つであるHEDPに線を放出するReを標識したRe-HEDP化合物が検討されているが、血液クリアランスの遅さや胃への集積などが問題となっている。これはおもに、Re-HEDPが多核錯体であり、体内で不安定であるためであると考えられている。そこで、本研究では、安定なRe単核錯体であるRe-MAMA(モノアミンモノアミドジチオール)をビスホスホネート骨格を持つ化合物に導入した新規薬剤Re-MAMA-BPを設計・合成し、その化学的挙動を調べた。その結果、Re標識グルコヘプトン酸の配位子置換反応により、Re-MAMA-BPを標識率32.04.1%で合成することができた。また、本化合物は、緩衝液中(pH7.0)では、Re-HEDPに比べてかなり安定であった。したがって、Re-MAMA-BPは、癌性骨転移の疼痛緩和薬剤として優れた化学的特性を有していることが明らかになった。
吉田 崇宏; 鈴木 義規*; 尾崎 卓郎; 大貫 敏彦; Francis, A. J.*
Proceedings of International Symposium on Radioecology and Environmental Dosimetry, p.296 - 300, 2004/03
環境中で生物活動または産業活動により排出される有機配位子はアクチノイドの溶解度を高め、その移行を促進する影響を及ぼす。微生物は金属イオンを吸着することが知られているが、有機配位子が吸着に及ぼす影響についてはよくわかっていない。三価アクチノイドのアナログとしてEu(III)を用いて、有機配位子(クエン酸,デスフェリオキサミンB(DFO),EDTA)存在下で好気性細菌によるEu(III)の吸着実験を行った。はpH4からpH7でEu(III)に対して高い吸着能を示した。クエン酸またはDFO存在下ではによるEu(III)の吸着量はほとんど変化しなかった。一方でEDTAはによるEu(III)の吸着を著しく減少させた。X線光電子分光(XPS)分析により、吸着したEu(III)が微生物表面のカルボキシル基や水酸基に結合していることが示唆された。Eu(III)-EDTA錯体の錯体安定度はEu(III)-クエン酸錯体,Eu(III)-DFO錯体より大きいため、これらの結果は微生物が錯体安定度が小さいアクチノイド-有機配位子錯体の移行を抑制する可能性を示唆する。
渡邉 雅之; 南川 卓也*; 山田 鉄兵*; 木村 貴海; 並木 康祐*; 村田 昌樹*; 西原 寛*; 館盛 勝一
Inorganic Chemistry, 42(22), p.6977 - 6979, 2003/11
被引用回数:34 パーセンタイル:75.29(Chemistry, Inorganic & Nuclear)トリス(2-ピリジル)カルビノールとよばれる三脚状の配位子は、金属間距離が非常に短いランタノイド二核錯体を形成することを明らかにした。通常この配位子は三座配位子として働くが、本研究では頭頂部にある酸素ドナーをうまく架橋配位させることで、二核錯体を形成させることが可能となることを見いだした。合成されたEu(III)とTb(III)の錯体では、配位子から金属中心にエネルギー移動を起こすため、強い発光をしめすことが確認された。
福士 圭介*; 佐藤 努*; 柳瀬 信之
Environmental Science & Technology, 37(16), p.3581 - 3586, 2003/07
被引用回数:71 パーセンタイル:79.91(Engineering, Environmental)25C,酸性条件下(pH3.3-3.4)において、溶液As(V)濃度の関数としたバッチ式収着実験によりシュベルトマナイトによるAs(V)収着機構が調査された。反応溶液と反応固体のキャラクタリゼーションから、As(V)収着機構はシュベルトマナイト中の固相SOと溶液のAs(V)との配位子交換であることが認められた。この配位子交換は2つの異なる機構を含む。すなわち、表面サイトに配位するSOとAs(V)の配位子交換,表面サイトから構造内へのAs(V)の移動、そして構造内SOとAs(V)の配位子交換である。As(V)収着とSO放出の交換比率及びシュベルトマナイト中におけるSOの配位環境の性質から、モノデンテートAs(V) 配位は表面サイトにおこり、バイデンテート・バイニュークリアAs(V) 配位は構造内サイトに起こることが推測された。これらの異なる反応サイトを考慮した収着モデリングは実測されたAs(V)収着現象をうまく表現した。
中本 忠宏*; 中田 正美; 中村 彰夫
Journal of Nuclear Science and Technology, 39(Suppl.3), p.102 - 105, 2002/11
幾つかの一価ネプツニル錯体の磁気的性質を、磁化測定及びNp-メスバウア分光法を用いて調べた。粉末試料の磁化測定の結果、ギ酸アンモニウム塩(NH)[NpO(OCH)](1)は2-300Kの温度範囲で常磁性体,また一水和ギ酸塩[NpO(OCH)(HO)](2)は12K以下で強磁性体になることがわかった。メスバウアの結果は、(1)が5.3K及び20Kで常磁性緩和を示すのに対して、(2)は5.3K及びT(=12K)以上においても、良く分離した磁気的微細構造による分裂スペクトルを示す。これらのスペクトルをネプツニル(O=Np=O)結合軸方向に束縛されたアイジング磁石的挙動によって生じる内部磁場を仮定して解析することができた。また粉末試料の磁化率データを、5f電子配置の基底L-S状態(H)の一軸性配位子場による分裂を考慮に入れて、矛盾なく説明できることを明らかにした。また、六水和フタル酸塩(NpO)(OC)CH6HOの特異な磁気的挙動についても報告する。
館盛 勝一
日本原子力学会誌, 42(11), p.1124 - 1129, 2000/11
被引用回数:1 パーセンタイル:81.71(Nuclear Science & Technology)当研究グループが開発した新抽出剤TODGAの紹介を中心に、新抽出剤開発の基本的な考え方やその方法論、具体的なTODGAの抽出特性と放射線の効果と分解機構を述べ、今後の課題として3価のアクチノイドとランタノイドの相互分離法の開発を述べた。
佐々木 祐二; 須郷 由美; 館盛 勝一
Proceedings of International Conference on Scientific Research on the Back-end of the Fuel Cycle for the 21st Century (ATALANTE 2000) (Internet), 6 Pages, 2000/10
当研究室で三座配位可能な中性抽出剤であるジグリコールアミド化合物を合成し、アクチノイドとランタノイド元素抽出を試みた。得られたN,N,N',N'-テトラオクチル-3-オキペンタンジアミド(TOOPDA)とN,N,N',N'-テトラデシル-3-オキペンタンジアミド(TDOPDA)はn-ドデカン中に十分溶解した。ジグリコールアミドによる硝酸溶液からアクチノイドの抽出において、+3,+4価のアクチノイドイオンが極めて高い分配比を示した。高レベル廃液を模擬するのに、0.1Nd(III)-Am(III)-3HNOを用いたが、1TOOPDA-n-ドデカン溶媒を用いて溶液中の金属イオンを概ね有機相に抽出できた。その他の元素についてもTOOPDAにより高い分配比を示すものがあり、これらの結果に基づき、高レベル廃液の郡分離プロセスが検討された。
小田 治恵; 雨夜 隆之*
JNC TN8400 98-001, 14 Pages, 1998/11
126Snは半減期110sup5[y]の-放出核種であり、高レベル放射性廃棄物の地層処分性能評価研究において重要となる核種の一つである。処分環境条件におけるSnの挙動を把握する上で重要となる熱力学データは少なく、処分環境条件における溶解度評価下において溶解度データが取られた例は、高pH領域を除いては報告されていない。本研究では、溶解度評価において重要となる配位子(OH-,Cl-およびSO/sub4/sup2-)濃度と溶解度との関係を調べることを目的とし、Na-ClO4-Cl-SO4水溶液系およびベントナイト平衡液系における非晶質のスズ酸化物(15)(錫酸、SnO2・xH2OまたはSnO2(am))の溶解度を測定した。NaClO4系における溶解度データは、pH611の範囲でpH依存性を示し、それによりSn(IV)の加水分解定数が求められた(Amaya、1997)。また、Na-ClO4-Cl-SO4系においては、Cl-、SO/sub4/sup2-濃度を変化させても溶解度データが変わらなかったことから、Sn(IV)の塩化物錯体や硫酸塩錯体が加水分解種よりも支配的にはなり得ないことを示した。一方、ベントナイト平衡液系での溶解度データは、ベントナイトを用いなかった他の実験よりも高い溶解度を示した。実験結果は、以下を示唆する。処分環境条件の下では、(1)Sn(IV)の液相化学種として、加水分解種、塩化物錯体および硫酸塩錯体以外の化学種が支配的に存在する可能性がある。(2)SnO2(am)以外の固相が、溶解度制限固相として存在する可能性がある。
佐伯 正克; 中田 正美; 山下 利之; 中本 忠宏*; Krot, N. N.*
Radiochimica Acta, 80(2), p.89 - 94, 1998/00
幾つかのフタル酸ネプツニル(V)を初めて合成し、その性質を調べた。濃い5価ネブツニル溶液から室温で生じる化合物は7水塩であり、368Kのより低濃度の溶液からは6水塩が得られた。前者は無定型化合物であり、水に対する溶解度が大きい。後者は、化合物の重量変化及び示差熱変化の結果から、367、423、463Kで吸熱的に水分子を放出し、1水塩に変化する。この1水塩は空気中に放置すると4水塩へと変化する。6水塩の固相電子吸光分析及び赤外吸収スペクトルの結果から、構造中にNpO-NpO相互作用が存在し、NpOは互いに2座配位子として作用していることが示唆された。メスバウアスペクトル測定結果からは、ネプツニウム周りの酸素配位数は7であること、NpOは互いに2座配位子として作用し2次元ネットワークを構成している可能性が高いことが明らかになった。
和田 幸男; 佛坂 裕泰*; 佐々木 聡; 冨安 博*
PNC TY8607 97-002, 158 Pages, 1997/05
本報告書は、平成4年から東京工業大学原子炉工学研究所の富安研究室と動燃事業団先端技術開発室とで継続的に進めている、光化学研究に関する平成8年度共同研究成果報告書である。本年度は昨年度に引き続き、アクチノイドおよびランタノイド元素の光化学分離および光励起量子効果利用に関する基礎研究を分担して行った。その結果、3M硝酸溶液中のPuおよびNpを光化学的に原子価調整し、TBP溶媒中に共抽出した後、選択的にNpだけを再び同じ3M硝酸溶液中に戻す、光化学逆抽出技術の原理実証に成功した。また、アクチノイドおよびランタニノイド元素の光化学的分離手段として可能性のある、これらの元素の大環状配位子錯体を用いた光励起一反応挙動実験を行った。その結果、多種類のLn3+を含む水溶液中の特定のLn3+錯体に固有な光吸収波長の光を照射することにより、そのLn3+を選択的に分離することが可能であると結論された。また、Cm3+の模擬物質として用いたEu3+に関する知見では、Eu3+と同程度の励起寿命と遥かに大きなモル吸光係数を持つCm3+に対しても適用可能であると推定された。
巽 和行*
PNC TJ8603 97-003, 29 Pages, 1997/03
本研究は,拡張ヒュッケル法を用いてアクチニド錯体の化学状態を理論的に把握することを目的とする。核燃料リサイクルの基礎研究において,積極的に理論化学および計算化学の手法を導入する試みに挑戦することが重要で,原子力基盤技術としての理論計算化学を構築することが不可欠である。この観点に立ち,平成6年度はアクチニドおよび密接に関連したランタニドの拡張ヒュッケル用計算パラメーターの決定を行なった。引き続き平成7年度には代表的なアクチニド化合物の電子状態計算を行ない,結合の性質と反応性に関する理論解析に成功した。本年度はランタニド錯体を主にとりあげ,その電子状態を拡張ヒュッケル法で計算するとともに,関連アクチニド錯体の電子状態と比較した。さらにこの結果を利用して,溶液中に共存するランタニドイオンとウラニルイオンとの分離を試みた。分子軌道計算を行なったランタニド錯体はサマロセンとその誘導体で,ランタニドと種々の炭素供与型配位子および窒素分子との相互作用を調べた。その結果,Cp2Smが異常に屈曲した幾何構造をとる電子的原因が明らかになった。また,配位子との結合が主にランタニドの5d,6s,6p軌道によって形成されることを見いだした。結合に対するランタニド4f軌道の関与は対応するアクチニド5f軌道に比べてずっと小さい。さらに,サマリウムとアルキル配位子,アルカン,アルケン,アルキン,窒素分子などとの共有結合的相互作用は弱く,一般にランタニド配位子結合のイオン性がアクチニド錯体よりも高いことを示した。配位子とランタニドおよびアクチニドとのイオン結合性の違いを念頭において,溶液中に共存するランタニド(III)硝酸塩とウラニルイオン(2+)硝酸塩との分離実験を行なった。分離用多座N供与性配位子をデザインし,ビタミンB1から安価に合成できる新規ピリミジン環状6量体を合成した。この配位子を用いると,La(III)とウラニルが高効率に分離できることが明らかになった。Ce(III),Pr(III),Nd(III)でもウラニルと効率良く分離されるが,Gd(III)や重ランタニドでは分離能が悪くなる。
館盛 勝一; 矢板 毅; 鈴木 伸一
Proc. of Workshop on Long-Lived Radionuclide Chemistry in Nuclear Waste Treatment, p.179 - 188, 1997/00
アクチノイド元素の分離に適する抽出剤を開発するには、アクチノイドの化学的特性の把握と、各種配位子の特性及びそれらが抽出分配特性とどういった相関を持つのかを解明、評価する必要がある。このような方法論を分子設計と呼んで、当研究室では新抽出剤の開発を行っている。OECD/NEAの上記ワークショップでは、当研究室でこれまでに得られた成果の中から、U(VI),Pu(IV)の抽出に有効な環状アミド化合物の分子設計の研究、及びAm(III),Cm(III)の抽出に有効な有機リン系二座配位抽出剤の抽出挙動の特徴解析について報告する。これらの発表を通して、新しい抽出剤の開発を理論的に進めることの重要さを指摘したい。